オンライン調査協力者は質問を読まない?



三浦麻子・小林哲郎 (2015).
オンライン調査モニタのSatisficeに関する実験的研究
社会心理学研究 第31巻第1号
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オンライン調査会社のモニタの過半数は、教示を読まずに回答している

・・・なんと衝撃的な報告であろうか!


インターネット上で調査に回答している様子を思い浮かべてほしい。
回答を進めていくと、ある1ページがあらわれる。
「以下の質問には回答せずに(つまり、どの選択肢もクリックせずに)、次のページに進んでください。」という教示が表示され、その下には選択形式の質問が3つ並んでいる。


調査協力者がもし教示をきちんと読んでいれば、これらの質問に対して回答を選択せずに、次のページへ進むはずだ。
しかし、もし教示文を読んでいなかったら?
ページ後半の質問から読み始めて、そこで何らかの回答を選択することだろう。


つまりこの設問は、「教示を読んでいない協力者」を発見するためのトラップ(罠)なのだ。


このようなトラップにひっかかる協力者が、ある程度、いや結構な割合で存在するだろということは、社会調査に関わったことのある者なら容易に想像がつく。
しかし、この“ある程度”とは、実際のところ、どの程度なのだろうか?


本論文の著者らは、オンライン調査会社2社(仮称:A社・B社)のモニタ登録者を対象として、上記項目を含む予備調査を実施した。
その結果、A社では51.2%、B社では83.8%の調査協力者が“トラップにひっかかった”、すなわち教示を読まずに回答していることが明らかになった。


「過半数というのは想定外で、データを初めて見たとき思わず声が出ました」と第一著者の三浦氏は語る。
「社会心理学の調査には実験操作を含むものが多く、それらは主に設問文の教示や内容を変えたり、シナリオ文を読ませたりすることによってなされています。この教示をそもそも読んでいないのならば、論外なわけです。」


このように協力者が設問文を読まずに回答することは、Satis¬fice(目的を達成するために必要最小限を満たす手順を決定し、追求する行動)のひとつとして位置付けられる。
どのような協力者が、いつSatisficeを示すのか。その原因は何なのか。
著者らは巧みに調査構成をデザインし、それに対する反応パターンを分析することを通じて、これらの問いに答えている。
その詳細をここで全て説明することはできないが、ぜひ本論文を参照してもらいたい。


Satisfice対策としてスクリーニング用の設問を含めることが有効

この研究成果から学ぶべきこととして,著者らが指摘するのはこのことだ。


すなわち、先に紹介したような、教示文や質問文を読んだ場合と読んでいない場合を識別できるようなトラップ質問を、オンライン調査の設問構成の中に含めるということだ。
これによって、Satisfice傾向を持つ協力者を識別しデータから除外できるのは勿論のこと、このトラップ質問に答えること自体が協力者の意識を高め、それ以降の設問を良く読むようになるという。


注目すべきは、調査会社によってSatisficeの出現頻度やそのパターンが異なっていたことである。
「オンライン調査の隆盛に伴い、多くの会社がサービスを提供しています。少なくない費用をかけないとできないことですので、我々も積極的に『選ぶ』目線を持つ必要がありますが、Satisficerがどの程度存在する可能性があるかという情報は、その際の重要な基準の1つとなりうるでしょう。われわれの研究をきっかけに、研究者間でこうした情報をシェアできるようになればいいなと思っています。」とは三浦氏・談。


今後オンライン調査を使用する予定のある人は、ぜひSatisfice対策を

そして、研究者コミュニティーにおいて、その成果をシェアしてみてはどうだろうか。この研究では、使用された調査票も公開されている→https://osf.io/dqxfz/ さらに、本論文の“続編”にあたる研究が第31巻2号に掲載予定となっている。刊行はまだ先になるが、その前にドラフトを読みたいという方は、下記Webサイトから第一著者にご連絡を。

(written by 尾崎由佳)

●三浦麻子氏Webサイト:http://asarin.team1mile.com/

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