オンライン調査で大学生を「ゲットだぜ!」
大学生にとって、スマートフォンはいまや必需品となっている。キャンパス内のあちらこちらで、小さな画面を覗き込んでいる学生たちの姿を見かける。最近は、特殊な生き物たちを“ゲットする”のが大流行しているらしい。なにやら、スマホ画面を通すと、見えなかった生き物たちが見えてくるので、それらを捕獲するゲームなのだとか。
スマートフォンを通じて見えてくるものを捕まえたいのは、彼ら(トレーナーと呼ぶらしい)だけではない。社会調査に関わる私たちも、スマートフォンやタブレット・パソコンなどのデジタル通信機器を通じて、その向こう側にいる人々からの回答データを“ゲットする”。いわゆるオンライン調査である。大学生の間でも各種のデジタル通信機器およびそのリテラシーが大幅に普及したおかげで、彼らを対象とするオンライン調査の実施しやすさが飛躍的に高まった。URLをメールで送ったり、QRコードのついたチラシを配ったりして、調査対象となる学生たちをオンライン調査ページに導くと、彼らが回答した内容がインターネット上に収集されていくという仕組みだ。紙に印刷した調査票を利用した従来の手続きに比べると、実施する側にとって利便性が高く、回答する側にとっても(研究者からの指定がないかぎりは)各自にとって都合のよいタイミングや場所で答えることが許されているという点において、調査に参加しやすくなったと言えるかもしれない。
大学生は“まともに”回答しているのか?
しかしながら、研究者側としては多少なりとも気がかりなことがある。大学生の生態をじっくり観察するまでもなく明らかなことだが、ほぼ常時、彼らは通信機器にアクセスするチャンスがある。裏を返すと、いつ・どのような状況で調査回答をしているのか、把握しきれないのだ。深夜に自宅のパソコンに向かっていたのかもしれないし、通学中の電車に揺られながらスマートフォンを握っていたのかもしれないし、学食で友人と談笑しながらタブレットを弄んでいたのかもしれない。こういった多様な状況下で、彼らはどれだけきちんと設問を読み、誠実に回答してくれているのだろうか。
こういった懸念――オンライン調査の回答者たちが、どれだけ調査内容の精読し、正確に理解と反応をしてくれているのか――は、努力の最小限化(Satisfice)の問題として知られており、本論文の著者たちが精力的に検証および公表に取り組んできたテーマである。彼らの近年の研究成果については、以下の論文ニュースをご覧いただきたい。
三浦・小林(2015a)の論文ニュース:オンライン調査協力者は質問を読まない?
三浦・小林(2015b)の論文ニュース:「手抜き」回答が調査データを汚染している
この努力の最小限化の問題について「日本の大学生を対象としたオンライン調査」をターゲットに据えて検討したのが、本研究である。
努力の最小限化傾向を検出せよ!
上述の三浦・小林(2015a, b)に続く研究報告として発表された本論文であるが、その最大の特色は、1)努力の最小限化を検出するための多様な項目を用意し各検出力の高さを比較したこと、2)(彼ら自身の先行研究では一般人サンプルを用いていたが)大学生サンプルを対象にしたこと、この2点であろう。
調査対象となったのは、全国9つの大学に在籍する学部学生。依頼対象者は3,044名、調査回収数(欠損値含む)は762名であった。調査項目には、回答の非一貫性を数値化するための尺度や、調査に注意深く取り組まない程度を測定する課題、映像視聴に際する努力の最小限化傾向(映像を最後まで視聴しない、視聴後から回答開始までの時間が長すぎる等)を表す行動指標、映像内容に関する記憶の正確さを問う関連設問が含まれた。また、努力の最小限化傾向を自己評定する項目(「回答をなるべく早く終えようとする」等)に加えて、関連しうる特性として認知欲求(「単純な問題よりも複雑な問題の方が好きだ」等)や調査協力動機(「謝礼がもらいたいから」等)についての自己評定項目についても回答を求めた。
結果のうち興味深かったのは、大学生サンプルにおいては努力の最小限化を示すケースがあまり見られなかったという点である。たとえば、「以下の質問には回答せずに(つまり、どの選択肢もクリックせずに)、次のページに進んでください。」といった、教示の理解と遵守を確かめるための設問において、全7項目に正しく反応した割合は85.0%、6項目以上とした場合は95.5%であったという。これらの値は三浦・小林(2015a,b)で報告されている一般人サンプルよりもだいぶ高く、すなわち大学生たちが設問を(比較的に)よく理解して従っていたことを表している。
また、映像視聴についての関連設問や行動指標を従属変数とした場合、努力の最小限化検出指標はほとんど予測力をもたなかったという点も興味深い。(ただし、この結果が刺激映像に依存している可能性については著者ら自身も指摘している。)
その他にも詳細な分析結果がていねいに紹介されているが、それらについては本論文をご参照いただきたい。また、分析手法のひとつとして用いられたLassoの有用性については著者自身も大いにアピールしたいとのことで、ぜひご注目を!
より良い検出法を求めて
これらの分析結果に基づいて著者らが結論づけたポイントは、以下の2つにまとめられる。1)大学生サンプルでは努力の最小限化の出現率が低かった。2)各検出指標の予測力は総じて高くなかった。したがって、本論文中の記述をそのまま引用するならば、「大学生サンプルを対象にする際は、回答者の特性依存的な努力の最小限化傾向の検出に『躍起になる』必要はな」い、とのことである。
しかしながら、この結論は「大学生サンプルを用いている限りは、努力の最小限化傾向の問題について気にしなくても構わない」ということを意味してはいないので、どうかご注意いただきたい。あくまでも、今回の手続きによって得られたデータから明らかになったことであり、すなわち特定的な状況下で観察されたパターンのひとつでしかない。著者らも述べているとおり、今後もひきつづき、さまざまな検出技法や検証基準を用いて、ていねいに検討を繰り返していくべき問題である。本論文がこの問題を取り上げたことにより、大学生サンプルを対象に実験・調査を行っている研究者の関心・理解が高まること、また多様な検証が展開していくことを期待したい。それを通じて、努力の最小限化傾向によるデータの毀損をできるかぎり低減できるような、より質の良いデータを“ゲットする”方法が開発されていくことを願う。
第一著者・三浦 麻子(みうら あさこ)氏へのメール・インタビュー