「買い物の心理」とは?
「買い物の研究」と聞くと,お金の話?と思うかもしれない。実際,買い物行動については,家計との関連や,買うかどうか,何を買うかといった意思決定のしかたに関する研究が多く行われている。
しかし本研究では,お金の話や商品選択についてあれこれ言うのではなく,買い物をする消費者本人にとって,買い物という行動がどんな意味を持つかという点に焦点を当てている。買い物とは,消費者としての現代人が誰でも,しかも頻繁に行う行動であり,そうした買い物行動に伴う心理的な特徴を明らかにすることは,消費者としての人間の理解を進めるものといえる。
買い物によって得られるものは「商品」だけではない!
人は買い物によって,商品以外に何を得ているのだろうか。
たとえば,イヤなことがあった時に衝動買いをして「ストレス発散」をすることがある。ストレス発散効果は,商品そのものの価値とは異なるものである。また,ウィンドウショッピングという言葉もある通り,商品を購入しなくても成り立つ買い物”的”な行動もある。
これらのことから,買い物行動はただ必要なものを入手するための無味乾燥な手続きではないことがわかる。
先行研究では,買い物に対する意識には,快楽価値観と効用価値観の2つがあると指摘されている。快楽価値観とは,買い物行動そのものを楽しいと感じられることだ。効用価値観とは,手際よく必要なものを買えたとか,お得に買えたとかいったような,「よい買い物」ができることである。
自分の買い物経験を思い出してみれば,確かに快楽を得ていることも効用を得ていることも実感できるだろう。しかし,意外にも,日本ではこうした2つの次元で買い物行動を捉えるという研究はほとんど行われていなかった。
そこで本研究では,人が買い物体験をどう捉えているかを測定する尺度の日本語版を作成し,海外の先行研究で見いだされた「快楽」と「効用」という2つの観点が日本人でも見られるかを検討した。
バーゲンに夢中になりやすいのはどんな人か?
本研究では,関東地方の一都三県に在住する成人を対象に,webでの調査を行った。その結果,海外での先行研究と同様に,日本人も買い物行動を「快楽」と「効用」の2つの観点で捉えていることが示された。
買い物を快楽を得られるものと捉える傾向の強さは,バーゲンやセールで買い物をしようとする傾向の強さや衝動買いをしてしまう傾向の強さと関連していた。一方,効用に関しては,買い物を効用を感じられるものと捉える傾向の強い人ほど,長期的な目標を視野に入れて,購入を控えたりより安く購入したりしようとする,浪費抑制志向も高いという結果が得られた。
本文ではさらに男女別,ライフステージ(既婚か未婚か,子どもはいるか),世帯収入などで分けての検討もしている。詳しく知りたい方は,ぜひ本文を読んでみていただきたい。
買い物意識を知ることで得られるもの
消費者の買い物意識を知ることで,個人のレベルでは,実はやめたいと思っている衝動買いなど,自分の買い物行動を見直すきっかけになるだろう。また,商品を売る側の視点で考えれば,商品の質を高めるだけでなく,どのような売り方をするかを工夫して売り上げを高めるための手がかりとなりうる。
本研究では調査対象地域が限定されており,たとえば買い物の便が今回の対象地域とは著しく異なる地域に在住する人では異なる結果になるかもしれないなど,本研究の結果をすぐに日本人全体に当てはめられない可能性もある。しかし,まず海外の先行研究と基本的に同じ結果が得られたことは1つの成果であり,今後の展開が期待される。
大久保暢俊氏へのメール・インタビュー