会長挨拶

日本社会心理学会は、1960年に発足し、現在では約1600名の研究者や実践家の方々の活動を支える組織として運営されてきました。学問としての社会心理学は、ヒトの生理的過程から、個人の認知や感情、コミュニケーション、対人関係、集団過程、社会や文化的影響に至るまでの、幅広い社会現象を扱って研究領域を広げていくとともに、神経科学、哲学、言語学、法学、工学、認知科学、教育学、経済学、国際関係学、福祉学、医学、看護学などの多様な領域とも交流を深め、学際的な議論の場を生み出すことに中心的な役割を果たしてきました。

ところで現在、複雑化する現代社会はさまざまな問題を抱えています。社会心理学は、それらに立ち向かう人類の社会知を支える役目を担っており、課題とする現象を科学的に記述、説明、予測、そして統制を目指しています。その伝統的アプローチでは、人間を取り巻くさまざまな影響要因が存在する社会の現実をありのままに見つめて、それらの影響要因が作用する中で、主たる影響要因を取り出して検討してきました。そのため、他の科学と比べて、実験上では再現性が低くなりやすいといえますが、それでも果敢に検討を続けていく中で、確固たる法則や理論を多く生み出してまいりました。またそれらは、現実場面の介入に即しているため、実装しやすい利点があります。

しかしながら、それらの知見が実際の社会現場で用いられ、役立っている場面に遭遇することは意外と少ないと感じておられるかも知れません。それは、研究者と実践家との間に乖離ができているためではないでしょうか。一般に専門誌上や仲間だけとの交流で満足しがちな研究者と、そんな研究活動とは無縁と思っておられる実践家との橋渡しをすることに、当学会は貢献したいと考えています。関連諸領域の研究者をはじめ、行政、司法、公共機関、企業などの諸団体に関わっておられる実践家のみなさまにおかれましては、どうか、何なりと抱えている課題についての知見を問い合わせていただきたいと存じます。また、会員におかれましては、これまで同様に、支援と協力をお願いするものでありますが、我々の社会知の発展に寄与する意識で、各課題の解決に向けたさらなる積極的なチャレンジを続けていただきたいと願っています。

2023年5月

日本社会心理学会会長
西田公昭