第四三回大会への招待 ―― 個人発表の尊重と充実をめざして ――
大会準備委員長
一橋大学 村田光二
日本社会心理学会大会は、一方で個人発表数の飛躍的増加にどう対応するのかという課題に、他方で発表内容の進展や質的向上をどう促すのかという課題に直面していると思います。今年度の大会の発表数の合計は三九五にも上りました。過去最多であった昨年度を九〇ほど上回っています。従来の二日間で発表を完遂することはかなり難しいことのように感じます。昨年度、多くの大学に主催校を引き受けてもらえずに、結局非力な本学に落ち着いてしまった背景には、この量的拡大の問題があったと思います。
第四三回大会では、自主企画を除いてすべて個人発表にすることによって、これに対応しようと考えました。つまり今回の大会では、準備委員会主催のシンポジウムや講演会を開きません。その時間をとることによって、多数の個人発表の時間を圧迫することを避けようと考えました。本学に十分人的資源がなくて、そういった企画を立てる能力がなかったという実情もありますが、大会開催日を三日間にしないで開催にこぎつける一つの方策だと思います。
他方で、日本の社会心理学界が、心理学や関連する科学の分野に知的貢献を果たしたり、広く社会科学の分野に情報を発信したりすることが少ない、という深刻な問題があります。「大会への招待」の小文で論じることのできる問題ではありませんが、大会のあり方にも関係している面があるのではないかと思い、個人発表の方式を勝手ながら少しだけ変更させていただきました。
まず、参加者が一堂に会して聞くことのできる「基調発表」を初日の最初の時間帯(十時~十時四〇分)に設けました。北海道大学の亀田達也さんにお願いしましたが、題目は「人間の社会性と『規模の経済』 -不確実性の集合的処理をめぐって-」です。ご発表に関心のある方は、どうぞ早い時間においでください。
次に、「特別発表」の時間帯(各三〇分)を二つ用意しました。口頭発表に申し込まれたものの中から、時代の先端を切り開く(少なくとも可能性のある)あるいは関心を寄せる人の多いホットな研究を選ばせていただきました。これは四発表を平行して、計八つ行います。これらの発表によって会員に共通の話題を提供し、批判も含めて学会内で議論が可能になることを望んでいます。この選抜のためにプログラム作成委員を委嘱し、手分けしてすべての口頭発表申込原稿を査読していただきましたが、最終的には準備委員長が判断しました。判断にはバイアスがつきものです。その点をあらかじめご容赦ください。
また、個人発表の平行セッション数を三つと少なくしました。初日の午後に二つの時間帯と二日目の午前と午後に一つずつの時間帯をとりましたが、口頭発表数の合計を七二に限定したことになります。口頭発表には一二〇以上の申込みがありましたので、その結果三分の一以上の方にはポスター発表に回っていただくことになりました。プログラム作成委員に発表原稿を読んでいただき、論文内容の質の高さとともに、「より多くの会員が聞きたいと思うかどうか」も基準として評価してもらい、最終的には準備委員長が判断しました。もちろん多くの異論がおありのことも重々承知しています。この選抜の結果ご迷惑をおかけすることになったり、あるいは気分を害されたりした会員もいらっしゃるかもしれません。それでも判断を示すこと自体に意義があると信じて、このようにさせていただきました。実際のところ、このくらいの(でも数年前と同程度の)発表数にしていただかないと、学生係員調達の点でも非力な私どもにとっては、開催が困難になったと思われます。
ポスター発表に関しては、時間帯を口頭発表と同じだけ多くとって、聞きたい発表のところにできるだけ行けるように試みました。しかし、予想以上の発表数の増加にうまく対応できたか自信はありません。この点もあらかじめお許しいただきたいと思います。なお、会場には椅子を多数用意して、楽に楽しく議論できるようにと考えています。ポスター発表の尊重と充実も、今大会でねらいとしていることですし、今後も重視していく必要のあることだと思います。
今回の大会では、九つの自主企画を申し込んでいただきました。二日目の最終時間帯(一五時二〇分~一七時五〇分)にすべてを平行して実施しては皆さまの不興を買うのではないかと思い、三つの企画には他の時間帯に移っていただきました。相談に快くのっていただいた申込責任者の方に感謝いたします。この結果、初日の午後に「裁判員制度の社会心理学」(企画;黒沢香さん)と「社会的ステレオタイプ研究の課題と将来性」(企画;潮村公弘さん他)、二日目の午前中に「信頼の社会的インプリケーション」(企画;吉川肇子さん)が実施されます。そして二日目の午後に「自己高揚と自己改善の文化心理学」(企画;杉森伸吉さん)、「臨床社会心理学の展開」(企画;安藤清志さん他)などを含めて六つの企画が実施されます。興味深い企画を立てていただき、準備委員会の非力を補ってくださったことになる関係者の方々に感謝いたします。
以上のように、第四三回大会は一一月九日(土)、十日(日)に東京都国立市の一橋大学で行われます。会員の方々にはサービスが行き届かない点があるかもしれませんが、あらかじめお許しください。特に懇親会場は狭く、参加していただく方々はとても窮屈な思いをされるかもしれません。それでも会員の皆様の研究成果の発表とそれをめぐる議論や知的交流の場として、少しでも役立つことを祈念して努力したいと思います。では、お越しいただけることを心待ちにしております。